外郎売り練習動画と現代語訳
- 2024年11月01日
基礎発声・滑舌練習教材として、「外郎売り」の動画をアップしました。
それに合わせて、現代語訳を掲載します。
>>動画はこちら
「外郎売」(佐藤剛史:現代語訳)
第一段
私の「親方」という方は、皆さんの中には知っている方もいらっしゃると思いますが、
江戸から京都に向かって八十キロ、神奈川県小田原の一色町から青物町を西に向かったところにいる「欄干橋虎屋唐衛門」というお方でして、今は頭を剃って隠居して「円斉」と名乗っております。
元旦から大晦日まで一年中手に入るようにいたしましたこの薬は、昔、中国あたりから日本に「ういろう」という人が持ってきたものであります。この「ういろう」さん、天皇陛下のもとに参る時にも、この薬を仕舞い込んでて使う時だけ一粒ずつ帽子の隙間から大事に取り出しておりました。その様子から天皇陛下が「透頂香」と名づけられたのです。すなわち文字にすると「頂き」「透く」「香い」と書いて「とうちんこう」とも言います。
最近ではこの薬が大変世間で評判になっており、いろんなところに偽看板が出て、「小田原の」というならまだしも、「灰俵の」「さん俵の」「炭俵の」と、もはや「だわら」しか合ってないぞ!ってくらいにいろいろ言って売られておりますが、ひらがなで「ういろう」と書いているのは、うちの親方の円斉だけです。
もしも、ここにいる方の中で熱海か箱根へ湯治に行かれるか、お伊勢参りに行かれる際は必ず入る店を間違えないでください。
京都へ向かう時は道の右側、江戸へ向かう時は道の左側、周りに八つの棟があって、そのうち表通り側に三つの棟がある御殿風の建物。屋根の合わせ目のところには菊の御紋と桐の御紋を使うことをお上からお許しいただいているという、しっかりとした家系の薬なんです。
第二段
いやいや、さっきからうちの店と薬の由来の自慢ばかりになっちゃってますねぇ。これ、知らない人には「胡椒を丸呑みしたら辛さわかんないよ」とか?「夜船に乗って観光なんて何にも見えなくてわかんないよ」とか?ってくらいにわからない感じ?
でしたら一粒食べてみて、その効き目をお目にかけましょう。
まずはこの薬をこのように一粒、舌の上に乗せまして、飲み込んでみますと、何とも言えないくらい、胃、心臓、肺、肝臓の調子がよくなって、さわやかな香りがのどから口の中に流れてくる。魚・鳥・茸・麺類の食い合わせで体調不良になったりした時とか、いろんな病気に対しても速効性がある様はまさに「神」。
さて、この薬の第一のすごいところは、舌がすごい回るようになって、くるくる回る銭ゴマが裸足で逃げ出しちゃうくらい。ひょいと舌が回りだすと矢や盾で武装したって堪らない。
第三段
そりゃそりゃそらそりゃ舌が回ってきたよ、回って来るよ。
「ア行」「ワ行」「ヤ行」は喉で作る音、「サ行」「タ行」「ラ行」「ナ行」は舌で、「カ行」は犬歯あたり、「サ行」は歯の音、「ハ(ファ)行」「マ行」の二つは唇の合わせ方の軽い重いの差で作ってね。口を開けてさわやかに「あかさたなはまやらわ」「おこそとのほもよろを」。
一つの皿に、へぎ干し餅とはじかみ生姜。
盆お供えの豆、米、ごぼう。
摘みたてのタデ、豆、山椒。
書写山で写経してるお坊さん。
「粉になっちゃった米を噛んでも生噛みになっちまうよ」って三回言ってみた。
繻子、紅染めの繻子、繻子、色とりどりの繻子。
「親も嘉兵衛で、子も嘉兵衛だってよ」「親がかい?子がかい?」「子が嘉兵衛で、親も嘉兵衛だよ」
古い栗の木を切った古い切り口。
雨合羽か、番合羽かどっち?
お前の脚絆も皮の脚絆で、わしらの脚絆も皮の脚絆で一緒だ。
尻部が皮で出来てる袴の、ちょいとしたほころびを、三針くらいちょっと縫って、縫った奴をちょっと出せよ。
河原のナデシコ、野のセキチク。
野良の如来様、野良の如来様、三つの野良の如来様、六つの野良の如来様。
ちょっと先にある小さな仏様につまずかないで。
細い溝にドジョウがにょろり。
京の生のタラ、奈良の生のマナガツオ、ちょっと18キロくらいおくれ。
お茶を立てろ、茶を立てろ、素早く立てろ、茶を立てろ、青竹の茶せんでお茶を素早く立てろ。
第四段
来るぞ来るぞ、何が来る? 高野山のお寺の小僧が何でか知らんが、狸を百匹、箸を百膳、天目茶碗で百杯、棒を八百本持ってくるぞ。
武具と馬具と、武具と馬具と、三揃えの武具と馬具と、他にも合わせると武具と馬具が六揃え。
菊と栗、菊と栗、三つの菊と栗と、他にも合わせると菊と栗が六組。
麦とゴミ、麦とゴミ、三つの麦とゴミと、他にも合わせると麦とゴミが六つずつ。
あの長押に乗ってる長い長刀は、誰の長刀だ?
向こうのゴマの殻は、エゴマのかい?マゴマのかい? あれこそ本物のマゴマの殻だぜ。
「殻(ガラ)」っていやぁ、がらぴいがらぴいって風車は回るよね。
起き上がりこぼし、起きやがれ!小法師。夕べもこぼして、またこぼしたー!
たーぷぽぽ、たーぷぽぽ、ちりからちりから、つったっぽ。ってお囃子が入ります。
たっぽたっぽの干しダコが落ちたら煮て食おうか。
でも煮ても焼いても食べられないものといえば、五徳、鉄球、金熊童子ってこりゃ金属だからね。石熊童子、石餅は石だからね。虎熊童子、虎キスは虎だからね。って今出てきた童子は酒呑童子の子分「四天王」なんで人間だけどな。
その酒呑童子の子分の中でも東寺にある羅生門にいる茨城童子はすごいよ。切られた腕で栗を五合つかんでお蒸しになっとりますからな。
で、その酒呑童子を退治した源頼光のお膝元にいたのは、
第五段
「頼光四天王」と言われる頼光の家来のフナ(渡辺綱(ツナ))、キンカン(坂田金時(キントキ))、シイタケ(占部季武(スエタケ))サダメテ(碓井貞光(サダミツ))、の豪胆な四人。そうそう鮒、金柑、椎茸ってのは後段と言って食事の後の軽食で出たりしますよね。
他に後段といえば、そば切り、そうめん、うどんもそうか? 愚鈍な小坊主、は違うよな。
小さい棚のちょっと下の小さい桶に、ちょっとした味噌が少しだけあるんで、小さい杓子をちょっと持ってきて、少しすくって、ちょっとくれや。
よっしゃ!わかった!心得た。田んぼばっかの川崎、神奈川、保土ヶ谷、戸塚だったら走っていけるぜ、って走ったら膝下をすりむいちまった。膝下っていやぁお灸すえる「三里」の場所じゃねぇか、じゃあ三里くらい走ったんかい。まだ走るよ。
藤沢、平塚、大磯と大忙しで走って小磯の宿場を、朝4時くらい(明け七つ)に起きて早朝から早々と、相州の小田原から「透頂香」を持って来ました。やっと話が戻りましたよ。
隠すところもありません。身分の高い人も低い人もたくさん集まる華やかなお江戸、そのお江戸の花と重ねてみましょう「ういろう」を。
あれ、あの花「ういろう」を見て、お心をお和らぎなさい。
「おぎゃぁ」と生まれたばかりの子や、這い這いしてる子にまで、この「ういろう」の評判を知りませんなんて申されまい、まいまいつぶりはカタツムリ、角出せ、棒出せ、ぼうぼう眉も出せ。ボウボウと火を起こして飯の時間だ!臼、杵、すり鉢持ってこい!バチバチ、グワラグワラグワラと煮立っちまって、うるさいくらいに羽目を外しておりますが、私。
今日ここにおいでになる方たちに、「差し上げねばならない」っていうか、「売らなければならない」と、息を込め気を張って、東方世界にいらっしゃる薬の元締めでもあられる薬師如来様もご覧くださいと! ほほぉ! 敬って申し上げます。
「ういろう」はご入用ではありませんか?!
※無断利用を固く禁じます。